「コラ…」


投稿者 : Black Velvet


昭和58年(1983)か59年(1984)。
友人Mと遊びに行った帰り、二人で住宅造成地の一角を歩いていた。そこは丘陵地の一角にあり、雑木林の中に点在する小さな古墳を破壊して宅地造成をしている最中であった。一面真砂土の更地に、古墳の石室に使われていた大きな石が解体され一か所に集められていた。
Mと私は童心に帰ってその大きな石の上を飛石を歩くように石から石に飛び移る様に歩いていた。
今にして思えば何故そんなことをしたのだろうかと思わなくもないが…

曖昧な記憶だが、空がうっすらとオレンジ色に染まっていたので17時頃前後だったと思う。
ポンポンと石から石へと飛び移っていると、突然耳元で低い男の声で
「コラ…」
と囁かれた。

「!」

あまりに突然の事で一瞬ビクッとなり、Mと顔を見合わせる。Mにもその声は聞こえたようだ。
工事関係者か何かかと思い辺りを見回すが、何処にもそれらしい人の姿が見当たらない。それ以降一切声は聞こえなかった。そう広くもない道に面して小さな造成地があるだけで、人の気配も感じられない。
そこ(造成地)は、道に面した小さな空き地のようになっており普通に誰もが出入りする事が可能で、造成地(管理地)ではあるが、特にロープを張ったりフェンスを設置していたわけではなく、特に立入禁止等の看板も無かった。(だからと言って勝手に入って良いわけでは無いが。)
周囲を確認した後、二人で逃げるようにしてそこから立ち去ったことは言うまでもない。
(蛇足だが、今の私ならそこに腰を据えて次に何が起こるかを冷静に待っていることだろう。)

字で表現すると伝わり難いが、二人が聞いた声は「コラー!」という注意を促す? 怒鳴る? といった感じではなく、低い声で耳元で囁くような声だった。
思えば、(破壊されていたとはいえ)被葬者の最期の安住の地である古墳の石室(の石)を土足で踏み付けたのだから、この程度で済まされたのは寧ろ感謝するべきなのだろうと感じた出来事だった。






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