舞子墓園のトイレ

投稿者 : Black Velvet


昭和59か60年(1984~1985)頃の事だったと思う。
友人KSと出かけていた時、
「トイレに行ってくる」
と言ってKSは傍にあった公園墓地の入口にある公衆トイレに行った。
私はトイレの正面にある植え込みの石垣に腰掛けて彼を待っていた。
暫くすると、50代後半から60代ぐらいの白もしくは薄い青に細かい模様の入ったブラウスに赤系に白い細かい模様の入ったスカートをはいた女性が出てきて、そのすぐ後にKSが出てきた。当時、この公衆トイレは男女兼用であった。
トイレから出てきたKSは
「あそこのトイレ、誰も入っていないのにガタガタギーギー音がして、誰かが居るみたいで気味が悪かった。」
というのだ。
そこで、不思議に思った私は、先ほどの女性の話を彼に話した。すると、彼は怪訝そうな顔で私にこう言うのだ。
「いいや、誰も居なかったよ。何となく気味が悪かったから、人が居ないか個室の方まで見たんだから…」
しかも、私がその女性が出てくるのを見た頃、彼は用を済ませ、洗面台の前の鏡で眼鏡や髪を整えていたというのだ。
図を見てもらうと解ると思うが、このトイレの通路部分は狭く、人が一人通れる程度しかない。彼が鏡の前に立っている限りそのままでは通る事は出来ないし、よしんばすれ違ったなら絶対に解るはずである。
しかし、実際に私は白昼この眼でしっかりとその女性を見ている、かといってKSが嘘を言っているようには見えないし、彼が私に嘘を吐く理由も無い。
暫く二人は顔を見合わせたまま黙っていた。
私が見た女性は何だったのだろう。
或いは白日夢だったのだろうか。





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