雄 島

投稿者 : Black Velvet

令和4年(2022)5月5日。
3年ぶりの「行動制限のないGW」、連休の後半を利用して北陸に旅行に出かけた。
東尋坊を訪れた後、少し足を伸ばして雄島を訪れた。

雄島は越前海岸にある周囲2キロメートルほどの無人島で、越前海岸でもっとも大きな島らしい。安島漁港から鮮やかな赤色の雄島橋が架かっており、徒歩や自転車で雄島に渡ることが出来る。
橋の向こうには大湊神社の大きな石造の一の鳥居が見える。大湊神社は、白雉年間(650~654)の勧請と伝える延喜式内の古社で、事代主神、少彦名命ほか六柱(五柱とも)を祀り、航海、漁業の守護神として崇敬されている。
島全体が「神の島」として信仰の対象となっている雄島だが、近年一部では心霊スポットという神の島には似つかわしくない事でも知られている。東尋坊から身を投げた人の遺体がこの雄島に流れ着くとか、島内を一周する道を反時計回りに巡るとこの世に帰ってこれない(死ぬ)といった噂があるからだ。

それらを一絡げ(ひとからげ)にすることは甚だ罰当たりなのだが、大湊神社の参拝と雄島観光と心霊スポット探訪を兼ねて雄島へ渡る。
雄島へと続く雄島橋を二、三歩踏み出した時、突然眩暈にも似た感じを受ける。路面から海面までの高さはそれほど無いのだが、まるで渓谷の吊り橋でも渡っているかの様な恐怖感が全身に込み上げてくる。
足を一歩踏み出す度に「ゴゴン、ゴゴン」と橋の床板?主桁?が響きながら上下に振動している感覚が足の裏にダイレクトに伝わってくるのが分かる。すぐ横を歩いている妻にその事を伝えるのだが、
「全然揺れていないよ?…」
と不思議そうな顔をする。どうやら私だけがそう感じているようだ。
怖くて足を踏み出せない。しかし、ここまで来て雄島に渡らない訳にもいかない。
全くもって情けない話だが、妻に手を繋いでもらい、視線を地面(足元)に落としたまま足元を確かめるようにして橋の中央を一歩一歩進んで行く。
僅か200メートル程の橋なのに、歩いても歩いても一向に島に着く気配が無い。1分が10分にも20分にも感じる。
どれくらい歩いただろうか、怖くて顔を上げられない私は妻にどの辺りまで来たかを尋ねると、まだ橋の半分ほどを渡ったか渡らないかだという。この様な表現をすれば神の島に失礼になるが、行くも地獄戻るも地獄の心境である。挙句、頭の中には神の島に拒まれているのだろうかという勝手な思考さえ浮かんでくる有様だった。
しかし、ここまで来たのだから進むしかない。意を決して強張った体のまま雄島へと歩を進める。
どれくらいの時間が経っただろう。島に着いた頃には疲れ切ってぐったりしていた。とても長い時間が流れたような感覚に襲われていた。
疲労感を纏ったまま一の鳥居を写真に収め、大湊神社へと続く急な石段を登って行く。
橋を渡っていた時の足元が揺れるような感覚は無くなっていたが、相変わらず眩暈の様な感覚が続く。ここで足を踏み外そうものなら運が良くて大怪我、最悪は死ぬかもしれない。手摺を持って一段一段踏み締める様にして上って行く。
78段の石段を上った先に二の鳥居が見えてくる。石段を上り終えて森の中を行くと、拝殿に続く飛び石が配されている。
この頃になると、少しだが落ち着いてきたような気がする。
飛び石の参道を進んだ先、木々に囲まれるようにして緑の屋根の大湊神社本殿が見えてくる。現在の本殿は元和7年(1621)福井二代藩主、松平忠直が武運長久、国家安全の祈願所として再建されたものと伝える。
本殿の前で二礼二拍手一礼。
参拝を済ませ、みんなが行く方に付いて行く。林を抜けると目の前に海が開け、海岸には雄島の流紋岩の板状節理が広がっていた。
このまま先に進むと島を一周するのに1時間弱ほどかかるというので、残念ながら来た道を引き返す。
大湊神社本殿前を通り、石段をゆっくりゆっくりと下り、一の鳥居を潜る。
いよいよ問題の雄島橋だ…
恐る恐る足を踏み出す。
ところがどうしたことであろう、来る時の恐怖感や眩暈は嘘のように消えてなくなっている。海風を浴び、風景を楽しみながら、のんびりと橋を渡り、何事も無かったように安島漁港へと着いた。それは本当にあっけないほどだった。
あの奇妙な感覚は先入観や思い込みとかだけでは説明出来ない…
あれは一体何だったのだろう。

島に来てはいけないといわれたのだろうか…
そして、大湊神社に参拝した後からそれまでのことが嘘のように消えたこと…
妻に言わせると、
「(大湊)神社さんにお参りしたから、悪い物が離れたんじゃない?」
と、冗談とも本気ともつかない様子で言っていた。
今思い返しても不思議でならない。

後になって知った事なのだが、雄島に纏わる禁忌として「島を反時計回りに回ってはいけない」以外に「雄島橋を途中で引き返してはいけない」というものがあるらしい。それは、途中で引き返すと死者の霊に憑かれてしまうのだという…






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