天狗倒し

投稿者 : Black Velvet

令和2年(2020)10月29日。

「蛙の宮さん」の愛称で親しまれている丹波篠山の住吉神社を訪れた。
住吉神社の鎮座する今田町は古くは摂津住吉大社の播磨国賀茂郡(かものこおり)椅鹿山(はしかやま)神領(しんりょう)(注.1)に含まれる御杣山(おそまやま)(注.2)であり、平安初期には摂津住吉大社の小野原荘となった。
「東大寺文書」の天喜3年(1055)の文中に「多紀郡西県住吉御領小野原御庄」とあり、国役が免除されていた。
鎌倉時代の文保年間(1317~19)になると、小野原荘の氏神として住吉大社の分霊が小野原の地に勧請、創建された。これが今の住吉神社である。

境内西の山林の中、社殿のすぐ左手に御旅所かくれ宮があり、そこから20メートルほど奥に行った所にご神木「かくれ杉」が聳えている。
樹齢700年以上、樹高16メートル、幹周り5.9メートル。
その昔、住吉の神様がお越しになられた時、この杉の木の後ろにお隠れになられたことからその名がついたという。
この杉の木の下には磐座(いわくら)(注.3)の遺構が残されている。

ご神木と磐座に二礼二拍手一礼。杉木立の中、一際大きく天高く聳えるご神木を仰ぎ見る。
ご神木の全体を収めようと落ち葉の積もった斜面で足を踏ん張りながらご神木の写真を撮らせて頂く。
静寂に包まれた鎮守の森の中、シャッター音だけが響く。
すると、背後(感覚的には背後だった)から突然「ガコーン!」或いは「ゴトーン!」という、まさに「轟音」という表現が相応しいほどの大きな音がした。(15時40分頃)
文字では上手く表現出来ないのだが、丁度電車の車輪がレールの接続部を通過する時に聞こえる音を何倍にも大きくしたような音と表現するのが一番近いかもしれない。
余りに突然の事で何が起こったのか分からないまま、ビクッと身を竦(すく)めたまま暫くそこで固まっていた。
繰り返しになるが、その音の大きさたるや大きな木が倒れてきたか、まるでダンプカーでも突っ込んで来たのかと思う程だった。しかし、不思議なことにそれだけ大きな音がしたにも関わらず、まったく揺れを感じなかったのだ。
大きな音がしたのは一度きり、鎮守の森は何事も無かったように静寂に包まれていた。
神様は写されるのがお好きではなかったのか。何か忌諱(きき)に触れるようなことをしてしまったのかも知れないと、神様にお詫びして早々に鎮守の森を後にした。

念のため車で待っていた妻に何か大きな音がしたり揺れたりしなかったかと尋ねてみたが、特に変わった事は無かったということだった。

今にして思えば、日本各地に伝わる古杣(ふるそま)、天狗倒し、空木(そらき)返し、空木倒し等と言われる怪異だったのかも知れない。
これらは、山中で木を伐る音がしたかと思うと、やがて大木が倒れる音がする。しかし、音がした方に行ってみても何も変わった様子は無いというものである。

注.1 神領:神社の領地、社領。

注.2 御杣山:社殿の造営などに必要な資材(木材)を調達するための山。

注.2 磐座:神の依り代とされる岩や石、或いは石組。






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