おじゃま道草
(2/6)




明けて、すぐ、私はフィルムを現像に出しました。その日の夕方には仕上がりますから、、。
職場へ行くと、弟(大輔)からの伝言がありました。
「今晩、帰る。友人を呼ぶ。酒、買っておいてくれ」
弟は、職場が遠いので、その近くに下宿しており、およそ月に1度、衣替えに戻っていました。

私は仕事の帰りに、上がったプリントを引き取りました。
持ち帰ると、まず、ネガで現像ムラや光線洩れ、傷などをチェックし、それからじっくりプリントを調べました。
枯れ木がとても目立ち、何枚かのカットに気持ちの悪い印象を与えていました。
と、、よく見ると、そのうちの1枚に、、、
南西の角のブロック塀に小さい赤い光点(豆電球でも点いているかように見える)が写っているものを見つけました。
同アングルの他のカットにはなく、そのカットにだけ写っていました。
ネガにもきちんと写っており、物理的な処理の過程で出来たミスとは考えられません。
赤、、、一般に負のエネルギーです。
小さな光点、、、強い霊体です。
色の感じからも判断して、、、
結論、、、祟りじゃーーっ!

ちょうど写真を見終わった頃、大輔が友人の榎本君を連れて現れました。
そして、私がテーブルの上の写真を片付けようとすると、、、
「何写したの?」
「お化け、、じゃ。」
「へぇーー、どれ? 見せて、、、、家?、、お化け屋敷?」
そのうち、私と大輔とのやりとりを見ていた榎本君が身を乗り出してきました。
「見せてもらっていいですか?」
彼が写真を捲っている間に大輔が彼について教えてくれました。
学生の頃の剣道部の仲間だそうですが、、、何と、、彼は霊感が強く、それを見込まれ、密教系の寺院でアルバイトをしている、、という変り種だそうです。
彼によると、、
「こういう赤いのって、神仏の罰てぇことがあるんです。
強いなあ、、、。
うかつなことは言えないので、これ、2・3日預っていいですか?
師匠に相談して見てもらいます。僕だったら、ただですから、、、」
ネガがあるので茅野君には焼き増して見せればよい、ということで、私は例のカットの他、数枚を榎本君に預けました。

榎本君は遅くまで飲み、その日は一泊して帰りましたが、大輔は馬場君の家に興味を示し、翌朝、、
「今日、茅野さんと行くんだろ? 俺、明日も休みだからつきあうよ。」
と言いだしました。
「あぶねぇぞ、、、憑かれるぞぉ~。」
「武道やってるからかも知れないけど、おれ、そんなの平気だよ。」

約束の正午に茅野君が現れ、私たちは3人でB宅(管理人注釈:馬場君宅)へ向かいました。
私は、例の猫が気になっていたので、途中、鰹節のパックを買っていきました。
馬場君宅へ着くと、ちょうどバンドの練習中でした。すぐに終わると言ので、待つ間に建物の周囲を調べることにしました。
林が切り開かれ、宅地として分譲された場所のようでは在りましたが、、
近くには古そうな農家が点在しています。
「わざわざ、木を切らなくても農地があるのになぁ」
私はだんだん土地の成り立ちが気になり出しました。
そして、しばらく歩き回るうち、
「ん? 水の気配がする、、、」
池か井戸か、、溜まった水のようです。場所は限定できませんが、どこかにあったと思われます。
そのうち、馬場君宅が静かになり、女の子(船井さん)が呼びに出てきました。

中へ入ると、まず、使わない皿を2つ貸してもらい、1つには水を入れ、もう1つには鰹節をのせました。
猫の気配がもっとも多い階段の下に、それらを置きました。
そして、しゃがんで手を合せると、
「ここにとどまるな、去りなさい、、、、」
と念じました。

それから5分位後でしょうか、、、練習室でお茶を飲んでいると、廊下の方から、「ニャン」という鳴き声がしました。
「また、猫がはいってきたか? 鰹節狙ってるんだろう。」
馬場君が立ち上がって、廊下を覗きました。
「ありゃ、いない。今、ないたよなぁ、、」
馬場君が首をかしげながらもどり、また元の雑談になりました。そしてその後、猫の気配はぱったりと途絶えました。

ところが、この猫供養が、本体をつついたようです、、、。

さて、3人でキッチンへ、、、。
6畳の広さがあるダイニングキッチンでしたが、だれもそこで食事を取らないため、テーブルなどの家具もなく、広々としていました。
まずは写真撮影、、、
「ん?、なんだぁ、あれは、、。」
柱の上部に、貼っていた紙を剥がしたあとがある、、。
きちんとはがさず、びりびりになって、中央部が残った状態です。
黄ばんでいて、古そう。しかも、そこだけでなく、部屋の四方に同じものがある、、、。
御札で何かを封じた、、、しかし破れた、、、。
最も剥がれていないものに近寄って、見てみると、真ん中が妙に黒い、、、 絵?、、、黒犬。御嶽山か、、?
「足がちくちくする、、、いるな、、。」
私は、茅野君へ向かって、
「何か感じない?」
「何か、足がひりひりするよ。」
「そう、、俺と同じだね。どの辺がひどい?」
「この流しの前のあたりかな。 」
「そうだろう、、、。」
またしても意見が一致。
それまで黙していた弟の大輔が口を開きました。
「すごい、、、殺気がある。
目を閉じると、今にも誰かが斬りかかって来そうな気配があるよ。
それに、昔痛めた腰が痛くなった。弱いところをつついて来るみたい。
この感じ、、、修学旅行で関ケ原へ行った時以来だな。
普通は、俺、こういうの平気なんだけど、、ここは別だよ。
何がいるんだぃ? 」
「ここで、「見る」と危ないな。帰ってからな」

私は、
「これは、猫のようなわけには行かないな。無理だな。」
と思い、馬場君に転居を勧めることにしました。そして、私がもう2、3枚写真を撮ろうとすると、茅野君が、
「何か気持ちが悪くなりそうだから、向こうで御茶飲んでるね。」
と言って台所をでました。
「俺もそうするよ。」
大輔も同じことを言いだしたので、私も出ることにしました。

練習室へ戻ると、馬場君が横になって寝ていました。
「明け方までかかってバンドスコアを書いたって言ってたからね。
でも、何か安眠してるようではないみたいね。」
船井さんがタオルケットを馬場君にかけながらつぶやきました。

しばらくすると、うつ伏せの馬場君がうなされ始めました。なにやら、寝言で、うん、うんといっています。
「あれ?」
よーーく、馬場君の方を見ると、、、何か、気配があります。彼の上に、影の様なモノがのっているようです。
私は茅野君に、
「どう思う?」
と意見を求めました。
「これ、金縛りじゃぁないの?」
押さえ付けられてんのかな?
茅野君の直感は、当てになります。私は、確信しました。
「馬場君は、意思が強く、行動力もあり、覚醒時は強い、したがって、疲れてうとうとしている様な弱い時につけこんで憑依してくるんだ。」

船井さんが、
「起こそうか、、、」
と、馬場君の肩をゆすりました。
でも、起きません。相変わらずです。
「あっ、ちょっと待って、もし、意識が飛んでいたらマズイ。
帰還に失敗するかも、、無理に起こさないで。」
私は、強く揺すろうとした船井さんを制しました。
その時、茅野君が、、、
「あれぇ、、、何か動いたよ。馬場君の背中の上、、、」
と言い出しました。
そして馬場君の背中の上、30cmほどのところに、手をもって行こうとして、、、
「おーーーっ。」
彼は、あわてて手を引っ込めました。
「ああ、ぞっとした、、、ちょっと、やってみなよ。」
私にも促します。
なんと茅野君にも見えたのです。
「やばいな。俺たちも影響をうけてるな、、。」
私は、そう思いながらも、彼に倣いました。
そおーっと手を出す。
動いている影の輪郭を抜け、突っ込む、、、、。
ひんやりとしています。冷蔵庫に手を入れたときのようです。
それでもヤツは動こうとしません。
そおーっと手をひっこめる。
冷たさは消えます。ヤツはうごきません。
「ねっ、冷たいだろ?」
と茅野君が同意を求めてきました。
「隙間風なんか通ってないよね、、やっぱり居るんだね。」
彼は、いつになく真顔です。私は、乗っているヤツが、いまだ退こうとしないので、除霊九字を切りました。
そしてそれが効いたのか、ヤツの気配は消えました。いや、一時的に退いただけですが、、、、。
切った後、馬場君を揺すると、彼はすぐに目を覚ましました。




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