動く銅像

「ALBA」の台座
平成30年(2018)6月、H.N.ちゃんまき様から次の様なご投稿(抜粋)を頂いた。

三宮交差点の北西角にある銅像(オブジェ)は、夜中誰もいない時に「キキー」っという音を立てながらクルクル回るという話を聞きました。
夜に動き出す二宮金次郎の都市伝説みたいですね。

ある猛暑の日、所用で三宮を訪れた時のこと。時間があったのでご投稿にあった動く銅像を見に行ってみる事にした。
心霊スポットというと一部のメジャーなスポットを除いてその所在が伏せられていたり、その所在が定かでない(曖昧)ものが大半である。そんな中、「三宮交差点の北西角」という街のド真ん中とも言うべきロケーションなので発見も容易であろうとたかをくくっていた。
「三宮交差点の北西角」というと、丁度三宮交通センタービルのフラワーショップのある辺りと事前に見当を付けていた。しかし、現地に行ってみると銅像もオブジェらしきものも一向に見当たらない。
「さて、この辺りに銅像やオブジェの類があっただろうか?」と、記憶を辿ってみるのだが、それらしいものがあったかどうかさえ思い出せない。生まれも育ちも神戸なので数え切れないほど三宮は訪れているが、思えば足を停めて街角のオブジェを一つ一つ見る事など無かった気がする。
考えていても仕方ないので取り敢えず周囲を探してみる。すると、いくつかのオブジェを見付ける事が出来た。
ひとつは、全高10メートルの「三宮駅南口広場噴水モニュメント」(1981、400x350x1000(cm)、アルミキャスト製)。見た目の迫力は十分だが、それ故、さすがに深夜こんな物がひとりでに回転していたりしたらもうそれは怪奇現象とかではなく、怪獣映画か何かの様ではないかと一人思った。余談ながら、かつてこのモニュメントはその名が示すように噴水の中に在ったのだが、現在噴水は花壇となっている。そして、ここは交差点の北東になる。
次に見付けたのは、三宮交差点を少し北上し高架を潜った向こう、三宮北交差点の南西にある巨大な赤御影石で出来た「風の標識 No.45」(1996年、大成 浩、350×180×170(cm)、赤御影石製)。しかし、三宮交差点からは離れているし、場所としては三宮北交差点の南西角になる。
これらは何れも場所も違うし、何より「銅像」という形容詞は当てはまらない。

先ほどの「風の標識 No.45」から再び三宮交通センタービルに戻ろうとした時、側の工事現場を見てあるモニュメントの存在を思い出した。
現在、神戸阪急ビル東館の建て替え工事に伴い閉鎖されている阪急神戸三宮駅北側の通称「パイ山」(さんきたアモーレ広場)に在った「AMORE」(2006、新谷ゆう紀、300×80×50(cm)、ブロンズ製)という震災復興モニュメントである。
このモニュメントは女性の下半身を6体繋げ合わせたような形をしており、「三宮交差点の北西角」ではないが、失礼ながら(何の予備知識も無しに)深夜にいきなり見みれば不気味といえば不気味だと私個人は思う。それ故に、このブロンズ像こそがH.N.ちゃんまき様のご投稿にあった“深夜ひとりでに動く銅像”なのではないだろうかと自分なりに勝手な答えを出し、その日は所用を済ませ帰路に着いた。

しかし、その直後、私の(いい加減な)推察は大きく覆されることとなる。

実は、問題の銅像を探して三宮をウロウロとしていた時、これらのモニュメント以外にもう一つモニュメントらしきものを見付けていた。
それはまさに「三宮交差点の北西角」、花壇(ポケットパーク)の中にぽつんと建つ何の変哲もない赤御影石製の石柱で、妻に教えてもらうまでその存在にすら気付かなかった。
その時私は特に気にも留めなかったのだが、後々これが大きな鍵となった。
その石柱の根元の方に「ALBA」(夜明け、日の出の意。「白い」を表すラテン語に由来。)と刻まれていたことを思い出し、気になって調べてみた。すると意外な事実が明らかになって来た。
今でこそただの石柱でしかない「ALBA」だが、かつてこの上には黄金の裸婦像があった。その作品の名前こそが「ALBA」だった。
「ALBA」は昭和47年(1972)に神戸出身の彫刻家、故 新谷ゆう紀氏が7周年を迎えた「さんちかタウン」(後の「さんちか」)に寄贈したもので、サイズは80×80×140(cm)、ブロンズ製、真っ直ぐ伸ばした左脚を右手で抱え、左手を大きく広げた黄金色の裸婦像で、当時は神戸交通センタービルの1階からエスカレータを下りた正面、さんちかタウン(現 さんちか)のかつて「アリスの木」と名付けられたオブジェの在った場所(現在ショースペースとなっている場所)に設置されていた。
昭和60年(1985)の大改装で現在の場所(ポケットパーク)に移設。確認は取れていないが、当時この像は台座を中心として回転していたという。
屋外に設置されている事もあり、風雨や排ガスを浴び黄金色に輝いていたその体の金箔が剥げ、肌の黒ずみが目立つようになっていた。
そこで、さんちかを運営する神戸地下街株式会社が平成21年(2009)に「末永く愛してもらいたい」との思いから「ALBA」像を京都の工房に約1カ月預け、24年分の汚れを落とし、金箔を身に纏い、併せて台座も新調した。
しかし、翌年10月、像が傾いているのが見つかる。しなやかに伸ばされた左脚に何者かがぶら下がったとみられ、同社は約100万円かけて修復。更に再発防止策として防犯カメラも設置したが、平成23年(2011)9月中旬、再び同様の破損が確認された。
同社は兵庫県警生田署に器物損壊容疑で被害届を出す一方、対策を検討したものの再発の懸念が消えず、「ALBA」像は再び京都の工房に送り返され、新たな設置場所が確保できるまでそこで保管されることとなった。

前置きが長くなったが、深夜に寂しげな音を立てながら回転するという銅像は他ならぬこの「ALBA」像であり、像が回転するのは心霊現象でも何でもなく紛れも無い事実だったのである。
日中のみ動いていたのか、昼夜を問わず動いていたのか定かではないので断言はできないが、恐らくはこの像が動く事を知らない人が、深夜にこの像が動いているのを見て怪奇現象だという噂が出来たのではないかと思う。
普通は銅像が動くなど誰も思わないだろうから、回転しているのを見た人は怪奇現象だと思っても仕方が無い事だろう…

私が見た石柱は、他ならぬ「ALBA」像の台座だったのだ。
言われてみれば、幼少の頃、親に連れて行ってもらった「さんちか」で黄金の「ALBA」像を見た気がする、そして、その何十年も後に確かに駅前で金箔のはげかけたた「ALBA」像を何度も見ていた。しかし、特に気にも留めていなかったので漫然と見過ごしていた。
そして、それが無くなっていた事にさえ気付かなかったとは、何とも遣る瀬無い話である。
勝手な言い種だが、「去る者は日々に疎し」というやつだろうか。

下記の神戸市HPに掲載された「ALBA」像に添えられた「※本作品は撤去されています。」の一文に一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。

参考:在りし日の「ALBA」像(神戸市ホームページ より)
https://www.city.kobe.lg.jp/a36708/kanko/kobemachiaruki/chokokunomachi/flower/3-110.html






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