廃山荘

廃山荘
私が知らないだけかも知れないが、兵庫県南部に比べると北部の心霊スポットと呼ばれる場所はそう多くないように思う。
確かに県北部には知名度から行けば全国区とも思える「山の牧場」があるが、次点を挙げるとなれば意見が分かれるところではないだろうか。
これは私の個人的な感覚ではあるが、衆議一決でこれが次点と挙げられる場所が無いように思うのだ。
個人的に次点に来るであろうかと思うスポットを思い浮かべても、(土地勘が無いことも手伝ってか)すぐにこれといったものが思いつかない。一家全滅事件、狂い山(狂い村)、ペーパー商法で社会問題となったT商事が関与しているとの都市伝説があった巨大なリゾートホテルの廃墟(2019年解体)…
私が次点に上げるとすればこれらの何れかだろうか。

ある日、兼ねてよりその詳細を調べていたスポットのひとつ、「廃山荘」について偶然にも情報を得ることが出来た。
分かっていたことは、兵庫県という以外その所在については全く不明という事とかなり危険な心霊スポットだということだけだった。
奇しくもその廃山荘は兵庫県北部にあるらしいという情報を得た。(注.1)
廃山荘の登場により、私の中での県北部における心霊スポットとして、知名度なら「山の牧場」、不可解で奇怪という点なら「一家全滅事件」、そして恐怖度ではここ「廃山荘」が一番というの位置付けが思い浮かぶ。

某月某日、所用で兵庫県北部の県境に近い日本海を望む鄙びたある田舎町を訪れた。
限られた時間内での行動ではあったが、車なら比較的短時間で行ける場所であったため所用を済ませ件の廃山荘を目指す。
地名を頼りに大体の位置を地図上にマッピング。山間部を走ること数十分、やがて道は細い山道となる。情報を得たとは言え、実際の所は大まかな地名を知りえただけに過ぎず、後はいつもの「勘」と「行動あるのみ」と「運任せ」である。
山奥ということもあってか、幸いなことに目的の(地名の)場所へと続く道はほぼ一本道。ひたすら山道を進んでゆくが目に映るものは一面雑木林だけ。
それでも何とか目的地と思われる辺りに近付いた。
「地図上では○○(地名)はこの辺りになるんだが…」
不安になりながら速度を落として車を進めて行くと、雑木林と雑草が途切れた所にアスファルトで舗装された駐車場か工場の入口のようなものが見えた。
「もしかして…」
淡い期待を抱きつつ、道が僅かに広くなっている所に車を寄せて徒歩で様子を見に行く。
そうそう人の出入りもなさそうな山奥の寂しい所ではあるが、稼働中の工場や施設かもしれない。恐る恐る様子を伺いながら中へと進んで行くと、ちょっとしたグランド程はあるであろうか思われる更地があるだけだった。かつて何か建物が在ったが解体整地された様な感じだった。
「遅きに失したか…」
そう思いつつも周囲を散策する。目の前に一段高くなった雑木林のような所があり、今いる更地の一段低い所には更に広い更地が広がっていた。
生い茂った草木を掻き分け、倒木を潜るようにして一段高くなった場所に行ってみる。

そこには鉄骨の一部を残し重機で解体されたまま放置されたような廃墟が無残な姿を晒していた。
散乱する無数の朽ちた柱とそれに覆い被さる赤茶色に錆びたトタン屋根。給水槽や洗濯機が原形を留めているのみである。
地名、建物の造り、立地、鉄骨に張り付くように僅かに残された外壁から察するに恐らくここが「廃山荘」で間違いないと思う。

地元では有名な場所だという。
現役時代の話なのか、閉鎖されてからの話なのかは定かではないが、この建物の奥の窓のない部屋で首吊り自殺があったという。遺体が下がっていた場所の下の畳はどす黒く変色し、大きなシミが出来たという話もある。
ここで亡くなった方の思いが未だ彷徨うのか、或いは何かが引き寄せたのだろうか。以来、この場所にはただならぬ空気が立ち込め、この世ならざるものが蠢いているのだという。
以来、祟りを恐れ誰もここに近付かなくなり、何時しか荒れるに任せ廃墟となって行ったようである。
その後、治安の悪化や犯罪の温床となる事を憂慮した所有者によって解体されたものと思われる。


注.1 2020/09/10 追記
本稿をUPした後、思い出したことがあったのでここに追記する。
兵庫県下には「廃山荘」と呼ばれる心霊スポットが2箇所ある。一件は本稿で紹介した兵庫県北部に在るもの、もう一件は淡路島に在る。
後者は、戦争資料館「戦没学徒記念館」に併設された宿泊施設「O山荘」のことを指し、一般には「Wの広場」等の名称で知られている。






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