小雨の降る中、北条町駅前に車を停める。
今日の目的地は駅前にあるという廃墟と化したホテルだった。
駅から車道を渡り少し歩くと、黄土色のラインの入った小さなビルと茶色の小さなビルが並ぶように建っていた。しかし、何れも出入り口は固く閉ざされ、窓という窓にはカーテンが引かれ、すでに廃墟と化している。 黄土色のラインの入った小さなこのビルは、かつて観光ホテルだったという。 いつ頃の事なのか定かではないが、ここのホテルの関係者が何らかのトラブルに巻き込まれ、経営者、従業員ともども暴力団に皆殺しにされてホテルは閉鎖、以来現在に至っているという噂を耳にした。 その噂が事実であれば相当な大事件である。何らかの傍証(例えば新聞記事など)が残っていてもよさそうなものなのだが、生憎、年代も何もかもが定かでなく、あくまで噂の域を出ない話なので確認のしようが無かった。 取り敢えず周囲を見て回ることにする… ビルの各階の窓にはカーテンが引かれ、玄関と思われる所にある小さな植え込みでは、伸びるに任せて生い茂るソテツだけが時間の経過を物語っていた。
果たして皆殺しの話は事実なのだろうか。噂では当市に「惨殺の館」と呼ばれるスポットがあると聞いたことがあるが、名前だけが一人歩きして誰もその所在を知らないという。
私が訪れた当時は田舎の風情を残す鄙びた町で、とても惨殺事件があったとは思えないほど長閑だった。それゆえ過疎化のあおりで廃業したいうのが実際のところなのだろう。
あれから数年の歳月が流れ、私が車を停めた昭和の面影を残す古い木造の駅舎は近代的な駅舎へと変わり、駅前は再開発が進み往時の面影はもう無いと聞いた。
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