Zさん家

Zさん家
ある町の少し古めの住宅街の突き当りにその家はあった。
点と点を繋いで線にするように、曖昧で断片的な情報をひとつひとつ繋いでここだ間違いないであろうという場所に辿り着いた。

通称「Zさん家」、いつ頃のことか定かではないがここで一家心中があったと言われ、今は住む人も無く空き家となっている。
漏れ伝え聞いた話を繋ぎ合わせると、一家心中の後、親戚の人が住んでいたとか、格安の家賃に惹かれ住んでいた人がいたというが、いずれも逃げるように出て行ったという。
一家心中の話も然ることながら、入居者が次々と変わったという話も噂の域を出ず、廃屋や空き家にありがちな、後から幽霊屋敷(お化け屋敷)の話が付加されたパターンかも知れない。

実際に現地を訪れてみると今も玄関の門柱には表札があり、確かに「Zさん家」だった。
当初、「Zさん」という呼び方は「Aさん」や「Xさん」のように匿名或いは伏字の類と思っていた。というのも、イニシャルが「Z」で表わされる苗字がそうそう思いつかないこともあり、勝手にそう思っていた。
余談だが、後日ざっと調べてみただけでイニシャルが「Z」で表わされる苗字は日本に150以上あることに驚かされた。

固く閉ざされた門扉は雨風に晒され錆び付き、しっかりと閉じられた雨戸の塗装は剥げ落ちていた。そう広くもない庭には空の植木鉢がいくつか転がっていた。
この家の主はどのようにしてここを去ったのだろう、ここで本当に噂にあるような凄惨な事件があったのだろうか… 今の私には知る術もない。



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