ゼロ戦墓地

ゼロ戦墓地
兵庫県宝塚市に通称「ゼロ戦墓地」と呼ばれる墓地がある。
戦没者英霊礼拝堂「大光明殿」の屋上に零式戦闘機(零式艦戦63型)の実物大のレプリカが展示されていることから、この様な名前で呼ばれている。

「宝塚の聖天さん」で親しまれる東寺真言宗 宝塚聖天 七宝山了徳密院の境内、高さ約20~30メートルほどの小山の斜面に、終戦33年の年に当たる昭和53年(1978)8月、宝塚市在住のKさんという方の寄進によって戦没者英霊礼拝堂として建立。全国の陸海空戦没者260万の英霊を祀っている。
施錠された礼拝堂の中を覗くと、薄暗い堂内の中央に木造観音菩薩立像と位牌が安置されており、周囲の壁には遺影と思われる写真や飛行機、基地の写真や絵などが所狭しと掛けられていた。
大光明殿の前には「神風特別攻撃隊之魁 甲飛十期之碑」をはじめ「戦没者追悼 平和祈念碑」、「中村純一中尉慰霊碑」などの慰霊碑が建ち、軍人墓地、墓地が広がっている。

私が言っても説得力の欠片も無いが、この国を守るために犠牲となり若くして亡くなった方々、戦禍により命を落とした方々の御霊の眠られる場所を心霊スポットと呼ぶことは誠に憚られることであり、私としてもこれらの方々を揶揄する意図は毛頭ないことをご理解頂きたい。また、幽霊やオカルトに対して懐疑的、否定的な人々にとっては荒唐無稽を通り越して不快感さえ覚えられるかもしれない。その点については、弊サイトの性質をご理解頂いたうえで、「馬鹿が何か突拍子もない事を言っているな」(注.1)と一笑に付して頂ければと願うばかりである。

悲しいかな、ゼロ戦墓地と呼ばれるこの場所には、戦争で命を落とされた方々の思いが折に触れその姿を覗かせるのかもしれない。
有名な話では、肝試しに来た若者が墓地で「日本は戦争に負けたんですか…」と見知らぬ男性に尋ねられた。若者が日本は戦争に負けたと伝えると、その男性は寂しそうに消えて行ったという話がある。また、8月15日の終戦記念日に飛行服姿の特攻隊員が手を振って立っていたという話、墓地の中でかくれんぼをしていた子供が軍服姿の青年に声をかけられたという話がある。
ここで火の玉を見た、深夜ここに肝試しに来た若者が礼拝堂を覗いたところ、堂内の遺影の目がギョロっと若者をにらみつけた、深夜ここを訪れた時、黒い霧のような人影に追いかけられた、深夜ここに肝試しに訪れた若者が突然墓石が鳴り出したので驚いて逃げ帰ったなど、様々な奇怪な話が囁かれている。
かつて(区画整理前?)礼拝堂の前には広場の様なスペースがあったそうで、墓石に囲まれる様に松の木があり、そこで首吊り自殺があったという話も聞いた。
また、墓地のそばを流れるドブ川(支多々川)(注.2)の方が頻繁に幽霊が目撃されており、墓地よりもこちらの方が危険だという話もある。

余談になるが、礼拝堂の前には大きな字で「飛天光明之珠海」と刻まれた石碑と共に「神風特別攻撃隊の魁 甲飛十期之碑」が建っている。
「甲飛十期」とは「第十期甲種飛行予科練習生」の略称。昭和初期、海軍航空戦力の急激な拡充を目指して、甲飛予科練制度が創設された。昭和17年(1942)4月1日、多くの若者が土浦海軍航空隊に第十期甲種飛行予科練習生として入隊。猛訓練に耐え飛行練習生教程を終えた甲飛十期の零戦搭乗員を中心に第一神風特別攻撃隊が編成された。
第一神風特別攻撃隊の敷島隊に2名(海軍一等飛行兵曹 中野盤雄、海軍一等飛行兵曹 谷暢夫(たに のんぷ) )を出し、その魁となっている。
甲飛十期之碑の基台部分に埋め込まれた「建記」の石板には「題文 谷一枝」とあり、この女性は「第一神風特別攻撃隊 敷島隊」の搭乗員となった谷暢夫一飛曹の母である。

私がここを訪れた時はまだ日が高いということもあり、また墓地の区画整理が行われた直後の様で古い墓碑は移動され、比較的新しい墓碑やまだ墓石の建立されていない区画などが広がっていた。件の零式戦闘機も最近になって色が塗り直された様で、墓地全体が妙に新しい感じがして噂で聞いていた様な雰囲気はそこには無かった。

産経新聞電子版(2015/8/1) 『戦後70年 「今の平和は戦った若者らの犠牲の上にある」 特攻兵器「桜花」投下の元神雷部隊員、同期の特攻弔い続ける』 に掲載されていた、甲飛十期の卒業生で慰霊碑の建立にも加わられた湯浅正夫さんの言葉を改めて心に刻み、平和に感謝すると共に、二度とあの様な悲劇が繰り返されないことを心より願っている。

「今の平和は日本を守るために戦った若者らの苦しみや犠牲の上にある」 湯浅正夫さん

注.1 「馬鹿が何か突拍子もない事を言っている」は本稿を書いているBlack Velvetを指し、不思議な体験をされた方達を指すものではない。
注.2 現在は整備、清掃されているが、以前は周囲の木々が鬱蒼と生い茂り、ゴミなどの不法投棄も目立った。



2022/07/12 加筆再編集。






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