S山の家
(K家、K屋敷)

令和7年の5月のある日、所用で岡山に行く機会があったので限られた時間ではあったが県北部の心霊スポットと言われる場所をいくつか訪れた。予め計画を立てていた訳ではないので、道中や現地で近傍の有名なスポットを探すという行き当たりばったりの探訪だった。
幾つか候補地をピックアップする。その中に「S山の家」(K家、K屋敷)なるものがあった。
岡山ではそれなりに知られたスポットらしく、真偽不明だが日本テレビ(系列?)の心霊関係の番組でも取り上げられたという話もあり、何か惹かれるものを感じた。
ネットで散見した話では、高台?山の中腹?に建てられた資産家の大きな家で、度重なる怪現象のために現在は別の所に住まれていたという話だった。
怪奇現象(心霊現象)が起こる、幽霊が出る、生首が現れる、家の前の石段に女性の幽霊が出るといったような話がある。ネット上には夜に家全体が光っていたのを見たという話や、家の人がUFOを呼んでいるといった話まで見受けられた。更に、父親同士が友達という人物の話、その家の孫と友達という人物の話、その家の方が経営していた会社(後述)の元従業員から聞いた話として書かれているものもあるが、ネット上の書き込みなので何を何処まで信じるかについては各人のご判断に任せたい。

非常に興味を惹かれるスポットだが、残念ながら(1)場所が判然としない(2)現在はない、と不安要素もそれなりにあった。“有名なスポット”、“テレビで取り上げられた”という付加価値?は私にとっては特に意味を成すものではなかったし、特にそこに何があるという訳ではないのだが、先に述べた様に何故か不思議と惹かれるものがあり「S山の家」を訪ねてみることにした。

スマホで色々と調べてみるが、肝心の所在がいまひとつ掴めない。大まかな位置や手掛かりを示してくれているが、所在に関しては、大きく分けて「場所を教えて」と「今も人が住んでいる家なので、不用意に不特定多数の目に触れる所では言えない(書けない)」が大半を占めていた。
有名なスポットと言われているようだが、周辺地域でのみ有名なのか岡山県の有名な心霊スポットと比べると圧倒的に情報量が少ない。
そんな時、ふとポチョムキン氏の名前が頭に浮かんだ。
ポチョムキン氏は岡山を拠点に各地の心霊スポットに行かれている「岡山心霊突撃隊」の一員で、現在ほぼ活動休止状態にある「Night Walker」のメンバーでもある。
早速ポチョムキン氏に件の「S山の家」について尋ねてみたところ、おそらくこの辺りだったと思いますと地図上で2ヶ所の候補地を教えて頂いた。ただ「うろ覚え」「情報が混在しているかもしれません」ということで、ポチョムキン氏自身が実際に訪れたことはないご様子だった。

地図を見ながら、教えて頂いたポイントを目指す。山間の川沿いに拓けた小さな町は、半分が住宅半分が田圃といったのどかな風景が広がっている。
一番目の候補地に到着。国道から少し入った所に大きな会社(仮にA社とする)が建っていた。S山の家は火事で焼けて今は無い(ネット情報)、「更地になっていると聞きました」(ポチョムキン氏)との事なので、解体整地後に会社が建ったのかも知れない。道を挟んだ向かいには数段の石段もあった。ここが女性の幽霊が出るという石段なのだろうか。
「ここ…なのだろうか?…」
疑う訳ではないが、何かしっくりこない気がしたもの事実であった。会社の敷地は約5700平方メートル弱(約1700坪)ほどあり、会社の敷地すべてが家の跡地だったとは限らないが、いくら大きな家だったとはいえ個人の家にしては広大過ぎるように思えた。更に何時頃無くなったのかは分からないが、会社はかなり以前からここに建っていた感じがある。
いささかのわだかまりを抱えたまま、次の候補地へ向かう。
最初の候補地から2キロほど進む。こちらも先の候補地と同じ様に国道の近くにあり、大きな会社(仮にB社とする)が建っていた。地名的には当該の地域とは異なる。先ほどの会社よりもさらに広く約7000平方メートル弱(約2100坪)ほどあり、こちらもかなり以前からここにある感じだった。
2002年の航空写真 S山の家が焼失したのが2013年初頭。航空写真で確認したところ、A社もB社も2002以前よりあったことが確認出来る。
心の何処かに抜けない棘のように引っ掛かっていた不信感が確信へと変わる。
(最初の候補地も次の候補地も)「ここじゃない…」
ポチョムキン氏には申し訳ないが、どうやらご教示頂いた場所では無かったようだ。
「S山の家」探しは振出しに戻る。
わずかな手掛かりを元にある程度の範囲に見当を付け、航空写真を拡大しながらそれらしき場所がないか隈無く探す。
どれくらいの時間が過ぎただろう、住宅街のはずれ、一本道の先に広い空き地があり、数台の車と資材か何かのような物が置かれている一角に目に留まった。ストリートビューで確認すると、立派な門とその奥へ続く道、一段高く築かれた石垣とその上に設けられた生垣、表札もそのまま残されている。表札を確認すると「Kさん」だった。ここで間違いない。ようやく発見することができた。
逸る気持ちを抑えて、車を走らせる。

国道沿いに広がる住宅街の少し奥、山裾の一角にそれはあった。
立派な門構えから家へと続く道が続いている。奥の一段高くなった所が家の跡と思われる。航空写真を見ると、門から手前の家(離れ?)まで50メートルほど、離れらしき家からその奥にある家(母屋?)までは更に50メートルほどあると思われる。門の外から眺めているだけでも、相当大きな家だったことが伺える。
近年の航空写真にも数台の車や資材のような物が写っている。今は家屋こそないが当然所有者なり管理者なりが居られ、今も所有者によって管理、使用されていることが伺える。
門の前に立ち、しばしそこにあったであろう大きな家に思いを馳せる。
限られた時間での探訪も然ることながら、門の前でぼんやりと立っていると不審者と間違われかねない。
苦労の末の収穫を実感しつつ、次の目的地へと向かった。

最後に「S山の家」について分かったことを少し書き添えておく。
ここは、ある建設会社の会長さんのお宅ということを聞いた。詳しいことは分からないが、家の方は何処か別の所にお住まいだったようで、定期的に管理に来られているとのことだった。
平成25年(2013)初頭、漏電による火災で焼失した。



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