神戸の0円ハウス

神戸には「会いに行けるアイドル」ならぬ「(霊に)会いに行ける心霊スポット」としてとても有名な場所があるという。
その名も「神戸の0(ゼロ)円ハウス」。築年数については語られていないが、大きさは4LDK、20年前(当時)にリフォーム済の一戸建て住宅。購入価格で言うと6千万円から7千万程度と言われている。そんな物件を家賃「0円」で貸してくれるというのだからにわかには信じがたい話である。家賃0円という時点で所謂事故物件や心理的瑕疵ありといういわくつきの家であることは想像に難くないだろう。

これだけの物件が家賃0円にもかかわらず、借り手が付かず、入居者があってもすぐに出て行く。
それは、この家に夜な夜な鎧武者の幽霊が現れるからだという。
周辺で合戦があったとか、戦死者が葬られているといった様なことは言及されていないが、鎧武者の幽霊が敵に斬り落とされた手足を探して庭を徘徊する、或いは庭を掘り返すというのだ。
そのため家賃0円で賃貸に出されているにもかかわらず、長い間空き家のままなのだという。

この話を聞いて、私には色々と思うことがあった。
僭越ながら主に兵庫県を中心に心霊スポットを追い続けて数十年、これまでに訪れた心霊スポットはそれなりの数になる。生まれも育ちも神戸だが”とても有名な”心霊スポットのわりには0円ハウスの話は寡聞にして初耳だった。
揚げ足取りと言われるかもしれないが、手足を斬り落とされた鎧武者がどのようにして(自分の手足を探して)庭を掘り返しているのだろうか。首無しライダーや足無しライダーが頭部や足が無くてもバイクを走らせることが出来る様に、手(足)が無くても土を掘れるというのだろうか。
更に、何故この鎧武者の幽霊が「敵に手足を斬られた」と分かるのかも奇妙だ。鎧武者が自ら語ったとでもいうのだろうか。
専門ではないので想像でしかないが、神戸市内、4LDKの戸建て住宅、20年前にリフォーム済、購入価格6千万円から7千万という情報があれば、ある程度どの物件かを絞り込めるのではないかとも思うのだが、0円ハウスと言うインパクトのある名前と怪談が先行するばかりで、その所在については「神戸」と言う以外、誰も知らない。
これもまた私が違和感を感じる理由だと思う。神戸とその周辺の人間なら「”神戸の”0円ハウス」という表現は恐らく使わないと思う。これは、神戸とその周辺以外、もっと言うと近畿、関西圏から離れた場所、例えばだが関東の人などが”聞いた話”として語る時に用いる表現の様に思われる。伝聞や都市伝説の類ではないだろうかと感じたのだ。

ただ、だからといって全くのデタラメ(或いはフィクション)とも言い切れない部分もある。
ディテールに相違はあるが、ぼんやりとした輪郭は2ちゃんねる(現 5ちゃんねる)発祥の有名な怖い話「神戸市北区の一軒家いらないか?」を彷彿とさせるのである。
有名な話なのでご存知の方も多いと思われるが、話のあらすじは次の様なものである。

2009年2月4日、2ちゃんねるの「物々交換スレ」に「神戸市北区の一軒家いらないか?」という書き込みがされた。
「必ず受け取る、三日以上家を空けない、死ぬまで住んでくれる」という三つの条件を守れるなら土地付きの家をタダで譲渡するという内容だった。場所は神戸市北区の谷上(同区山田町上谷上、同山田町下谷上、同谷上東町、同谷上西町など)の奥の方で、20年前(2009年時点)にリフォーム済、裏庭の林に井戸があるがこれは触らないで欲しいと説明している。
そして特筆すべきは、この家には夜になると山から何か得体の知れない物(真偽不明だが、後日、「教えてgoo」にこの家と思われる家に移り住んだという人物が「頭と手がない肉塊のような物体で、何を言っているのかは聞き取れませんが、子供のような声を発して徘徊します。」と書いている。)が来る。それについて投稿者は「もう怖いです、せつないです自分はもうみたくないですね」(抜粋)と述べている。
この話が投稿された直後から現在に至るまで何人もが様々な角度からのアプローチを試みたが、結局「神戸市北区の一軒家」の特定には至らなかった。
5年後の2014年04月、まとめサイト(「哲学ニュース」)で投稿者本人と名乗る人物が、あの話は”釣り”(虚偽の情報、話題を投稿して騙されたネットユーザーの反応を楽しむ行為)だったと告白したが、”釣り宣言”をしたのが投稿者本人であるという確証は何らなく、何が事実で何が虚構なのかと益々混乱する結果となった。

私が「神戸の0円ハウス」の話を知ったのが2014年頃、「神戸市北区の一軒家」の初出が2009年。一軒家(戸建て住宅)を無償で譲渡(貸与)、20年前にリフォーム済、ただし”得体の知れない物”が出る、これらの特徴が一致することを考えると、先述の話をベースに誰かが意図的に改変したのか、伝言ゲームよろしくオカルトファンの間で膾炙されるうちに変化して行ったのかは分からないが、「神戸市北区の一軒家」から生まれた話と考えて間違いないのではないだろうかと思う。

※おことわり
(1) 本記事の内容は“ミステリースポット”の紹介として掲載をしているものであり、特定の地域、人物、組織(企業、団体、機関等)、住宅等の名誉棄損、誹謗中傷、揶揄等ならびに業務の妨害等を目的としたものではないことをご承知おきください。
(2) 可能な限り事実確認、検証をしておりますが、情報源は風聞によるところも多く、とりわけ「怪談」や「不思議な話」といった類の物としてお読みいただければと存じます。
(3) 一切の名称、所在地及びそれらに類する情報、及び画像等については公開できことないことをご承知おきください。



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