兵庫県三田市の波豆川(はずがわ)と木器(こうづき)を分つ大坂峠。
昭和53年(1978)頃、「テレビ三面記事 ウィークエンダー」(注1.)という番組でここに女性の幽霊が出るという話が放送されたことにより、心霊スポットとして有名になったといわれる。
峠までの道の両側には木々が生い茂り、街灯も無く、道幅もそんなに広くない。確かに夜にここを通ると気味悪いかもしれない。事実、地元の人の中にはここを避けて、兵庫県道68号川西三田線に迂回する人もいると聞いた。
峠の頂上に祀られている地蔵尊は、その女性の幽霊を弔うためだと言われている。
しかし、この地蔵尊は三田市の昔話にも登場するほど古くから祀られているものであり、幽霊の話が付会されたものであろう。
この地蔵尊は「大坂峠の地蔵さん」として親しまれており、昔話によると、
ある村に夜泣きをする子がおり、母親がとても困っていた。
そんな母親を見て、姑は子育てが下手だと嫁(母親)に辛く当たっていた。
いたたまれなくなった母親は、泣き止まない子供を抱きかかえたまま外へと出て行った。
そしてこの大坂峠まできた時、地蔵尊にすがるような気持ちで子供の夜泣きが治まるようにと母親が祈ると、不思議な事にそれまで泣き止まなかった子供がぴたりと泣き止んだのだ。
以来、この地蔵尊を「泣き地蔵」、参拝して子供が泣き止むと「笑い地蔵」と呼ぶようになったという。
現在この地蔵尊は鉄製の檻のようなお堂に鎮座している。
この地蔵尊には、昔話以外に夜ひとりでに動き出したとか、鉄製のお堂の扉が風も無いのに開いたり閉まったりするという奇妙な話もあるらしい。
永年の風雨に耐えてきたその姿はおぼろげにさえなり、何か赤いペンキのような物を被ったような痕跡もあった。
これまでに何度と無く地蔵尊が持ち去られたことがあったため、鉄製の檻のようなお堂に納められるようになったのだと聞いた。
注1. 日本テレビ系列局ほかで1975年4月5日から1984年5月26日まで放送されたワイドショー。