三栄ビル

三栄ビル
兵庫県三田市の三田駅前に大きな商業施設がある。
その建物に隠れるように、廃墟となり閉鎖された古いビルがひっそりと建っている。
昭和42年(1967)に竣工したこのビルには、ホテル、大浴場(ホテルの施設と思われる)、映画館、パチンコ店、ゲームセンターなどが入る複合商業施設で、最盛期には結婚式場もあったという。(結婚式場として独立したものが在ったというよりは、ホテルの一部として結婚式場が在ったのかも知れない。)
1970年代前後にはこの街で一番大きく、一番賑わっていた場所だった。
詳しい事は定かではないが、三階、四階にあったホテルからの出火が原因で火災となり、1970年代半ば頃には閉鎖されたという事だった。
周囲が駅前再開発で新しくなって行く中、そこだけ時間が止まったかのように取り残された廃墟は荒れるに任せ無残な姿を晒し続けていた。
聞くところによると、解体には多額の費用がかかるためそのままになっているということだった。
長年の風雨に晒されボロボロになりながらも聳え立つ姿は、ここが心霊スポットであるか否かを別にしても何か威圧感さえ覚える存在感だった。

廃墟となる以前からここには幽霊が出るという噂があった。
そして、ここに隣接する駐車場さえ足を踏み入れれば呪われるといって近寄る事さえ恐れる人もいると聞いた。
ここに出るといわれる幽霊は、不幸な最後を遂げた女性だという話だった。
何分にも古い話なうえに、人伝に聞いた話との事で真偽の程は定かではないのだが、まだここが華やかかりし頃の話。
ここに結婚式場があったことは先に書いたが、ここで結婚式を予定していたカップルの女性が結婚式を目前に交通事故で亡くなるという痛ましい事があった。
以来、悲しみに暮れる女性の霊がここに現れるようになったのだという。

ビルの横にあった卒塔婆 私が現地を訪れた時、人目をはばかる様にビルと隣の建物の隙間に比較的新しい卒塔婆がビルにもたせ掛ける様に立てられていた。
わざわざ悪戯のために本物の卒塔婆を持って来たとも考え難く、悪戯で何処かから持って来たにしても周囲に墓地や地蔵尊は見当たらない。
誰がどういった事情でここに卒塔婆を置いたのかは分からないが、何かしら薄ら寒いものを感じたのは事実である。

悲劇の花嫁の話が風化して尚、幽霊が出るという部分だけが語り伝えられたのか、或いは彼女とは別の何かが出るのか、廃墟という外観から幽霊が出るという話が出来上がったのか、ただ静かに解体の時を待つだけの廃墟は何も語ってはくれない。
ここで一体何があったのかは最早知る由も無いが、人々で賑わう駅前から一歩入った閑散としたビルの陰でかつてそこにあった人々の賑わいに思いを馳せ、荒涼としたビルを見上げていた。

最近になって知ったのだが、あの界隈も駅前再開発の予定地になっているらしく、この辺りには20階建て前後の高層マンションが建つと聞いた。
平成23年(2011)度着工、同25年(2013)度の完成を予定しているらしい。

2018/03/15 追記
平成26年(2014)、三田駅前再開発のために解体された。



本ページはフレーム構成となっております。
左端にメニューが表示されていない場合はこちらからどうぞ。