相坂隧道(相坂トンネル)
付 西谷池(相坂池)・池のそばの電話ボックス

相坂トンネル
姫路市香寺町相坂に相坂隧道という古いトンネルがある。
このトンネルは大正時代(1912~1926)に造られた煉瓦造りのトンネルで、当時の人々の生活を伝える貴重な文化財なのだが、文化財としてより“兵庫県屈指の心霊スポット”としての知名度の方が高いようである。

江戸時代初期、谷山集落(同町相坂)の開墾が始まると、人々は「セキド」(通行を「塞(せ)き止める」の意)と呼ばれる険しい山越えの難所を通って、谷山(同町相坂)へと行き来をしていた。
文政8年(1825)、人々の困難する姿を見た相坂村塩田の住人、与右衛門が私財をなげうって山道を切り拓き、約200メートルの新道を整備した。これが現在の相坂トンネルの脇に残る山道で、入口には「相坂山道改修記念碑」が建っている。
大正10年(1921)に現在の相坂隧道が完成するとこの山道も使われなくなり、山道の脇にあった「相坂山道改修記念碑」もその存在は伝えられていたが、長い間行方不明となっていた。
平成16年(2004)、付近にバイパスを通す計画が持ち上がる。工事により周辺の環境が一変することを危惧した地元の有志三人が周辺を探し、土砂や落葉に埋もれた記念碑を発見。相坂公民館に運んだ。(バイパス工事は実施されなかった。)
相坂自治会副会長で郷土史家の難波氏が記念碑の再建を提案、令和4年(2022)10月、発見場所の近くに記念碑を建て直し、相坂自治会が解説板を立てている。
記念碑には「この道は久しく荒れて通行が困難で諸人が苦しんでいる。別に新しい道を造り未来永劫の利便をはかる」との趣旨が刻まれている。

大正8年(1919)、当時の香呂村(現 兵庫県姫路市香寺町南部)の村長、岩田清治の周旋でトンネルの建設が着工。同10年(1921)に完成。設計監督は鶴居村(現 兵庫県神崎郡市川町鶴居)の尾崎純三、工事を請け負ったのは愛媛県の高橋清吉という。
全長76メートル、高さ2.9メートル、幅2.45メートル。当時、まだセメントが普及していなかったため、その材料の7割が地元神崎郡香呂村香呂(現 姫路市香寺町香呂)のJR香呂駅近くにある「西播煉瓦会社」(大正10年(1921)6月 創業)が作った煉瓦が使用されている。工事費は当時の金額で2万円(現在の貨幣価値で約5千数百万円)という村の事業としては例を見ないものだった。

真偽のほどは別として“兵庫県屈指の心霊スポット”と言われるだけあって、トンネルとその周辺では奇怪な噂がいくつもある。
トンネル内で奇妙な物音や声(囁き、話し声)が聞こえる、霊が現れるとトンネル内の蛍光灯の色が変化したり突然消える、写真を撮ったら女性らしき顔が写っていた、突然車のクラクションが鳴りだした、トンネルを出たらフロントガラスにいくつもの手形がついていた、正面から巨大な光の玉がこちらに向かって飛んできた、トンネル内で突然エンジンが止まる、トンネル内で突然エンジンが止まり立ち往生していると火の玉が現れた、同様にエンジンが止まり立ち往生していると目の前に顔の焼け爛れた女性の幽霊が現れた、トンネル内で(エンジンを止めてという話もある)クラクションを3回鳴らすと、窓にいくつもの手形が付く、真っ白い手が壁から現れる、女性の幽霊が出る、天井から女性の幽霊が落ちて来るといったような噂がいくつもある。
幽霊が出ると言われるトンネルでクラクションを3回鳴らす云々といった話はトンネルにまつわる怪談の定番のひとつで、ここに限らず日本各地の心霊スポットと言われるトンネルに存在している(注1.)

トンネルのある山の上には、トンネル建設当時の物と思われる煉瓦で築かれた祭壇があり、数基の五輪塔の残欠とコンクリート製の馬頭観音らしき石仏がお祀りされている。
これらを心霊と関連付ける向きもあるようだが、これは往来の安全や牛馬の供養、集落へ悪いもの(疫病、盗賊など)が来ない様にと祀られたものと思われる。
この山は古くは姥捨て山であったとか、数度の自殺、死体遺棄があったという話、天狗が住んでいるという話(後述の八葉寺の寂心上人の逸話が元になったのか)などがある。
トンネルの西にある西谷池でもこれまで数度の自殺があった、死体遺棄があったという噂がある。更には、今も発見されていない遺体が沈んでいるといった話まで有る。トンネルの全ての煉瓦の数を数えるとこの池から河童が現れて襲われるという、もはや昔話なのか都市伝説なのか分からない様な話まで存在している。
トンネル内でお婆さんが交通事故に遭い亡くなったという話がある。軽トラックに撥ねられて亡くなったという話と、狭いトンネル内で軽トラックと内壁に挟まれたまま引き摺られるという凄惨な事故であったという話がある。そもそも真偽不明の話だが、これらが同じ事故のことを言っているのか、それぞれ別の事故なのか、或いは心霊スポットという場所だけに話に尾鰭が付いたのかもとも考えてしまう。因果関係は不明だが、この事故があってからというもの、トンネルの西側にある西谷池の色が変わったという。
西宮市にある「とうかい-406架道橋」という狭いトンネル(架道橋)にも、同じ様な話(女性がダンプとトンネル内壁に挟まれたまま引き摺られるという事故があり、それ以来幽霊が出る)がある。
他にも、トンネルそばの山中にある電柱に登り電線を掴んで自殺(感電死)した人がいる、平成25年(2015)トンネル手前の路側で練炭自殺があったといった話も聞いた。
詳細については分からないが、相坂隧道へ行く途中には焼身自殺のあった駐車場がある、香寺町内の池のそばにある電話ボックス(今もあるかは不明)には深夜女性の幽霊が出るといった話もあるようだ。
これらの事件、事故に関しては事実確認出来る資料が見つからないため、何れも真偽不明である。
相坂トンネルの噂のひとつとしてよく出て来る死体遺棄の噂に関しては、ここから3.8キロメートル(直線で1.6キロメートル)ほどの所にある「暮坂峠」で昭和60年(1985)と平成12年(2000)に死体遺棄事件があり、ここ(暮坂峠)で起きた事件が相坂トンネルの心霊の噂と混同され、相坂隧道で起こった事件のように語られることが間々ある。

私がここを訪れた時は、道路改良工事に伴う発破作業の為トンネルは全面通行禁止という旨の看板が点々と道に掲げられていた。しかし、ここまで来たのだから引き返す事など出来るわけも無く、取敢えず行ける所まで行ってみることにした。
山の中を走る道を進んで行くと、次第に道は狭くなり、その山道を登りつめた所に相坂トンネルはあった。
トンネルの手前に「工事中につき通り抜け不可」と書かれてあったが、特別にバリケードなどもされていないので中へと入ってみることにした。先にも述べたがトンネルの幅は2.45メートルしかなく、普通自動車がやっと通れる程度しかない。私はトンネルの手前の広くなった所に車を停め、歩いて中に入って行くことにした。
岩盤を刳(く)り貫いて造られたトンネルの中は、天井が煉瓦で覆われ、点々と蛍光灯が付けられている。中はひんやりとして、地下水のようなものが滲み出ている。壁の其処彼処にはイタズラと思われる手形などもあった。
古びた狭く暗いトンネルは、確かに独特の雰囲気を醸し出している。しかし、私にはそれ以上は何も感じなかった。むしろ、積み上げられた煉瓦の一つ一つに先人たちの苦労が偲ばれた。

余談だが、すぐ近くの八徳山八葉寺には、長徳元年(995)、八葉寺を再興した寂心上人(慶滋保胤、よししげのやすたね、陰陽師賀茂忠行の子)が沐浴用の湯釜を欲していた所、書写山の性空上人の弟子の乙天が釜を抱き、若天(毘沙門天の化身と伝えられる)が性空上人の文を携えて八葉寺まで飛んで来たという伝説がある。湯釜は現在、姫路市指定文化財として同寺の本堂奥手にある奥の院に安置されている

今回の探索でトンネルを撮影した写真10枚のうち1枚だけに赤褐色の靄(もや)のような物が全体に写り込んでいた。
この写真は心靈寫眞「相坂トンネル」に掲載しました。ご興味を持たれましたらご覧頂きたい。

参考データ
路線名兵庫県道80号 宍粟香寺線
延 長70.0m
幅 員2.45m
高 さ2.9m
着 工大正8年(1919)
竣 工大正10年(1921)
覆 工煉瓦、コンクリート
ポータル煉瓦
施 主香呂村
工事費約20,000円(当時)


注.1 トンネル内でクラクションを鳴らすと怪奇現象が起こると言われる主なトンネルを下記に示す。
50音順、( )内の数字はクラクションの回数

伊勢賀美隧道(旧伊勢神トンネル) 愛知県豊田市明川町 (3)
犬鳴トンネル 福岡県宮若市 - 同県糟屋郡久山町 (3)
開聞トンネル 鹿児島県指宿市開聞川尻 (3)
笠間トンネル 茨城県笠間市笠間 佐白山 (3)
観音隧道 千葉県富津市小久保 (3)
臼津(きゅうしん)隧道 大分県臼杵市 - 同県津久見市 (3)
旧本坂トンネル 愛知県豊橋市 - 静岡県浜松市浜名区 (3)
清滝トンネル 京都府京都市右京区嵯峨鳥居本深谷町 (言及なし)
三境隧道(第三トンネル) 群馬県桐生市梅田町 - 同県みどり市東町 (3)
関山トンネル(新トンネル) 山形県東根市関山 (3)
高隅ダム右岸道路隧道 鹿児島県鹿屋市上高隈町 高隅ダム (言及なし)
滝畑第三トンネル(塩降隧道・梨の木隧道) 大阪府河内長野市滝畑 (3)
団助(だんじょ)道路トンネル(空港トンネル) 北海道函館市瀬戸川町 (言及なし)
常磐新田トンネル 新潟県新発田市小戸 (言及なし)
豊田湖のトンネル(名称無し?) 山口県下関市豊田町 (言及なし)
南原トンネル 広島県広島市安佐北区可部町 (3)
畑トンネル 埼玉県飯能市大河原・下畑付 (2~3)
久峯隧道(コツコツトンネル) 宮崎県宮崎市 (3)
吹上トンネル(旧吹上トンネル) 東京都青梅市黒沢 - 同市成木 (3)
松尾隧道(旧松尾トンネル) 山口県岩国市美和町 (3)
松風トンネル(松風洞) 熊本県玉名郡南関町 (5)
室浜トンネル 広島県福山市 (3)
山元隧道 山形県上山市鶴脛町 (3)


2024/09/18 一部加筆

2025/06/13 加筆再編集。

2025/06/15 一部加筆

2025/06/17 一部加筆 + タイトルに西谷池、池のそばの電話ボックスを付記



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