下畑隧道

下畑隧道
三宮を出た兵庫県道21号神戸明石線(神明道路、旧神明)は須磨アルプスの山々を貫くようにして垂水、明石へと続いて行く。須磨寺の裏を走る須磨寺トンネル、鉄拐山を貫く鉄拐山隧道を経て、須磨区から垂水区に入り下畑隧道へと続く。
全長163メートル、入口から出口が見通せるほど短いトンネル(以下「トンネル」)だ。東側坑門には「下畑隧道」、西側坑門には「清風幽煙」と記された扁額が設置されている。

知人より下畑隧道に幽霊が出るという話を聞いたのは平成30年(2018)頃だったと記憶している。
以前より鉄拐山隧道に幽霊が出るという話があるのは知っていたが、下畑隧道に幽霊が出るという話は寡聞にして初耳だった。
その後、複数の人から聞き取りした話をまとめると、一ノ谷の戦いで亡くなった鎧武者の幽霊が出る。深夜、トンネルの中の歩行者用の細い通路(以下「歩道」)を歩いていると背後から誰かが後ろをついてくる足音がする、振り返ると白髪の老婆が追掛けてきた。血塗れの女性が正面から歩いて来る。真夜中にランドセルを背負った子供が歩いていた、不思議に思ってすれ違った後でバックミラーで確認するといなかった。といったような話を聞くことが出来た。
鎧武者や追い掛けてくる老婆、血塗れの女性の話が何時頃からあったかは定かではないが、ランドセルを背負った子供の話については噂の元となったと思われる記事を見付けることが出来たので以下に紹介する。

ひとつは「全国心霊マップ」様(以下敬称略)、ひとつは「まちBBS」より「【恐怖】神戸あたりの怖いお話 第9夜【怨念】」に深夜トンネルを歩くランドセル姿の子供についての記述がある。
「全国心霊マップ」によると、投稿者の体験談として次のような話が掲載されている。
要約すると、投稿者が深夜3時過ぎ、三宮から垂水方面(西行き)に車を走らせていた時のこと。下畑隧道を走行中、トンネルの中程で歩道をこちら(東行き)に向かって歩いて来るキャップ帽をかぶりランドセルを背負った男の子とすれ違った。バックミラーで男の子の姿を確認したら男の子の姿は無かった… というものである。
「まちBBS」にある話は下畑隧道の話ではないが、ここでも深夜トンネルを歩くランドセル姿の子供の話が投稿されている。夜の12時に太山寺トンネル(神戸市西区伊川谷町)の南側坑門でトンネルの方に歩いて行くランドセルのようなものを背負った子供が歩いているのを見たとある。投稿者は「見間違いだと思いたいが住宅はもう少し南に下りないとないから」と続けている。

私が下畑隧道に幽霊が出るという話を聞いたのが平成30年(2018)頃。「全国心霊マップ」に「下畑トンネル」(原文ママ)の話が掲載されたのが2017年12月6日。私が下畑隧道の噂を聞き始めた時期と件のサイトで下畑隧道が紹介された時期が非常に近い。
件のサイトで公開されたことを機に下畑隧道の怪談が広まり、人から人に伝わっていくうちに私の耳にも入ってきたのではないだろうか。

これを読んでいくつか疑問に感じたことがあった。それは他の人も感じたようで、「全国心霊マップ」のコメント欄にもこの体験談に対して疑義を唱えるコメントがいくつか寄せられていた。

投稿記事によると、トンネル内に人一人が通る事が出来る一段高い歩道があるということを述べた後で、投稿者(体験者)が三宮から垂水方面(西行き)に車を走らせていた時に幽霊と思われる子供に遭遇したとあり、その時 「狭いトンネルで左ハンドルだった私は手を伸ばせば男の子を掴める距離。」と書いている。
まず最初の疑問として、コメントにもあるのだが歩道はトンネル内の北側のみにあり、投稿者の車の進行方向から見ると歩道は対向車線の更に向こう側になる。
歩道には平成19年(2007)4月に防護柵が設けられている。考えにくいが、投稿者が西行きと東行きを勘違いしていたと仮定すると、車は歩道の横を並走する形にはなる。しかし、車と歩行者の間には段差があり防護柵があることを考えると、比喩的表現であったとしても「手を伸ばせば男の子を掴める距離」という表現も何か釈然としない気がする。
そう考えると、子供と真横ですれ違ったのなら子供は西行きの車道の狭い路側を歩いていたことになる。
投稿者は子供が歩道を歩いていたとも西行きの車道(の路側)を歩いていたとも書いてはいないが、もし西行きの車道を歩いていたとすれば、わざわざ誤解を招く様なこと(歩道の説明)を書く必要があったのだろうかという気持ちも加わってくる。

次に、質問者がどの様な意図で質問したのかは分からないが、コメント欄に「ランドセルの色は黒ではなく、こげ茶っぽい昔のやつですか?」との問い掛けがある。
それにに対し投稿者と思われる人物が「暗い古いトンネル内なので、そこまで分かりません。」と返信している。
これに対して、トンネルの中はそこまで暗くない(トンネル内に照明設備がある)、距離が短く(全長163メートル)出口が見えている。といったコメントが見られる。
トンネル内には自動車の運行に必要な明るさは確保されており、Panasonicのサイトの「トンネルの照明」には、
「トンネル照明については、国際照明委員会(CIE)において国際的な推奨基準1)が勧告されており、それは比較的ハイレベルなものとなっています。国内では、高速道路調査会から“トンネル照明設計指針”2) 、日本道路協会から“道路照明施設設置基準・同解説”3)などが発行されており、これらの中でトンネル照明についての基準が定められています。」
とあり、必要な明るさは確保されていると思われる。ただ、「暗い古いトンネル内」といっても感じ方には個人差があり、何を以って暗い明るいとは一概には言えない。
トンネルに用いられる照明の多くはオレンジ色(近年新設されたものは白色LEDもある)のため、ランドセルの色が黒かこげ茶かまでは判じ兼ねるとは思う。

前述の返信には、続けてこのように書かれている。
「前から歩いて来て通り過ぎても、生身の人間に見えました。今でもハッキリと記憶しています。」との返信に対して、「あなたと同じ人間と言う存在になります。」とコメントが寄せられている。 これは個々人の解釈の違いと思われる。コメントを寄せた人物は、「生身の人間に見えたのだから、それは紛(まご)うことなく生身の人間だったんでしょう」と解釈したと思われる。
これに関しては、私の解釈は逆で「生身の人間にしか見えなかったけど、バックミラーで確認したらいなかった。幽霊だ!」という逆説的なニュアンスで書いたのではないかと感じた。
さらに、続けて「違うサイトに、この場所で全く同じ体験を書いてあるのを見ました。」とあるのだが、残念ながら前述の「まちBBS」にあった太山寺トンネルの話ぐらいしか私の力では確認する事が出来なかった。

これらを纏めると、歩道があることを説明しているが、歩道は対向車線の更に向こう側にあり、子供が歩道を歩いているとするなら到底手を伸ばして届く距離ではない。
明るさに関しては、前述したように感じ方には個人差があり、何を以って暗い明るいとは一概には言えない。
生きている人間なのか、この世ならざるものなのかについては、バックミラーを見たらいなかったとあることから(幽霊がいるいないについては別として)幽霊と思われる。「生身の人間に見えました」というコメントが少なからず話を複雑にしている感は否めない。これがどのような意図で書かれたものなのかによって以降の展開が大きく変わる訳だが、幽霊を見たという話が大前提である以上、私が思っているような逆説的な説明であったのではないかと思う。

「まちBBS」に太山寺トンネルでランドセル姿の子供を見たという話が投稿されたのが 2011年4月13日。下畑トンネルの話が「全国心霊マップ」で公開される6年8か月前のことである。
兎角、見間違いだ、作り話だと言われがちな恐怖体験の類を殊更のように疑いの目で見てはいけない事は重々承知だが、前述したように辻褄が合わないのではないかといった懸念(投稿者は本当に下畑隧道を通ったのか?)を含んだ内容だけに、太山寺トンネルの話をベースとして創作されたものではないかとの疑念が湧かなくもないのも事実である。とはいえ、後述するがトンネル内にランドセル姿の子供の幽霊が出ると言った話は太山寺トンネルに限ったものではないので、必ずしも前述の太山寺トンネルの話がベースになったとも言い切れないのだが。

ここまで書くと件のサイトの記事や投稿者の体験談を否定しているようにしか見えないが、ランドセル姿の子供の話の真偽を除くと、他の幽霊の話(鎧武者、追い掛けてくる老婆、血塗れの女性など)は「全国心霊マップ」のコメント欄に投稿される以前より私が聞いていたので、サイトでの公開以前から下畑隧道に幽霊の噂はあったようである。

参考までに書くとトンネル(内の歩道)は近傍の中学校の通学路になっているが、変質者が出るため学校側からは通行しないように言われている。
歩行者用通路は車道より一段高くはなっているが、それほど広くなく自転車や電動車いすとすれ違う時は一度車道に降りるなど危険な状態が続いていた。市会議員の働きかけにより平成19年(2007)4月、歩道に防護柵が設置された。

全くの余談になるが、埼玉県の有名な心霊スポット(※実際はそうではないと言われている)「畑トンネル」のある場所が「飯能市下畑」であることから、「下畑にあるトンネル(畑トンネル)=下畑トンネル」との誤解?解釈?なのか、ごく稀にだが畑トンネル(飯能市)と下畑トンネル(神戸市)が混同されているものを数件見掛けた。

心霊スポットのなかにはランドセルを背負った子供の幽霊が出るというトンネルもいくつかある。以下参考までに。
・ 相坂トンネル(兵庫県姫路市香寺町相坂・同町須加院)
赤いランドセルを背負ったおかっぱの少女の霊が出る。
・ 小山田トンネル(岩手県宮古市小山田)
ランドセルを背負った少年の霊が追い掛けてくる。
・ 旧山手トンネル(大分県竹田市竹田)
赤いランドセルを背負った少女の霊が出る。
・ 開聞トンネル(鹿児島県指宿市開聞川尻)
トンネルで事故死した小学一年生の男の子の霊がランドセルを背負った姿で現れる。

参考データ
路線名兵庫県道21号神戸明石線
延 長163m
幅 員8.2m
竣 工昭和37年(1962)

下畑トンネル補修工事
工事内容繊維シート工363㎡ 断面修復工69㎡ ひび割れ注入工5.6m 他
着工年月平成31年3月
完成年月令和1年8月
施工業者㈱間地工業

関連記事:
・須磨寺トンネル
・鉄拐山隧道
・まちBBS 【恐怖】神戸あたりの怖いお話 第9夜【怨念】 記事番号 355
・爆サイ 神戸の怖い話・心霊スポット 記事番号 #2


2024/11/03 追記
本稿をUPした時、『「違うサイトに、この場所で全く同じ体験を書いてあるのを見ました。」とあるのだが、残念ながら前述の「まちBBS」にあった太山寺トンネルの話ぐらいしか私の力では確認する事が出来なかった。』と書いたが、後日「爆サイ」の「神戸の怖い話・心霊スポット」なるスレッドに以下のような書き込みがされていたので参考までに引用させていただく。
先にも述べている事の繰り返しになるが、「全国心霊マップ」に「下畑トンネル」(原文ママ)の話が掲載されたのが2017年12月6日、下記の投稿が行なわれたのが約3年後という点は留意しておかなければいけないと思う。

#2 2020/01/05 14:15
旧神明下畑トンネルで深夜帽子にランドセルの少年が俯きがちに歩道を歩いている、目撃多数!
[匿名さん]

2024/11/23 追記
「爆サイ」の「姫路の心霊スポット」にもに以下のような書き込みがされていたので参考までに引用させていただく。
尚、投稿は2018年4月12日である。

#17 2018/04/12 01:06
姫路じゃないけど垂水なら桃山台から下畑に
行く旧神明のトンネルで見ましたよ。
[匿名さん]




参照元 : 「全国心霊マップ」様より「下畑トンネル」



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